蓮華舎のブログ。

出版社 蓮華舎のブログです。新刊のこと、著者のお話、寄稿、取材記、舎長の日誌など。

他の人々と同じように世の中で生きなさい。ー師ババジの教えとは/ ヒマラヤの師と共に

『ヒマラヤの師と共に〜現代を生きるヨーギーの自叙伝〜』

シュリーエムと師マヘーシュワルナート・ババジ

*GREEN FUNDINGのサイトはこちらです。https://greenfunding.jp/lab/projects/3065

本書は、著者であるSri M 氏と、ヒマラヤで邂逅を果たした氏の師であるマヘーシュワルナート・ババジ、そして、その師の師であるシュリー・グル・ババジとの切り離せない深い繋がりと愛が根底に絶えず流れています。

 

師との問答、やりとり、そして一緒に時間を過ごすことでシュリーエム氏が感得した師の教えがちりばめられています。

そして、その幾つかは非常に心揺さぶる記述でもあります。本書のハイライトと言っても良いでしょう。

 

今回は、そのほんの幾つかの場面をご紹介します!

本翻訳書の師にまつわるたくさんの記述を楽しみにお待ちいただきたいと思います。

 

 師、マヘーシュワルナート・ババジの言葉

 

 なにが当時九歳だった私(シュリーエム)のもとへと彼を向かわせたのでしょう。

彼の尽きることない慈愛からでしょうか? それとも個人の生の長さを超えた、

大きな生の流れに由来する縁だったのでしょうか?

 物語の終わりに読者のみなさん自身にこの答えを決めていただきたいと思います。

 私の師、ババジは言いました。「物事をシンプルで率直に伝えなさい。

複雑な理論や深淵な神秘を装うことなく、他の人々と同じように世の中で生きなさい。

偉大なものは決して宣伝されることはない。その存在に近い人達は、自らお前を見つけ出すだろう。

友人や知人たちの見本であれ。世の中で幸せに生きながらも、尽きることない力、

そして無限の意識の恩寵とのつながりを保ち続けるのだ」。

 

 ババジとの暮らし

 

 ババジと暮らしはじめてから、私は人生ではじめて食べ物の有り難みを知りました。

そして料理の仕方もこのときに学びました。食事はとても質素なものでしたが、

調理は完璧にしなければなりませんでした。野菜の切り方からお湯の沸かし方まで、

一部を適当に済ますことは許されませんでした。あるときババジは言いました。

 「野菜をちゃんと切れず、ご飯もちゃんと炊けない者が、一体どうやって

究極の真理に到達できるというのだ。

 それでは朝から晩まで嘘まみれの人間が、自分はサッテャ(真実)を語っていると言っているようなもの。政治家でさえも「サッテャム・エーヴァ・ジャヤテー(真実が勝つ)」と口先だけで言うものだ。

 日常生活を完璧にするところからはじめなさい。それが究極の真理へ至る道だ」。

 

③ マサラ・ドーサ事件とババジ

 

 アルンダティ洞窟で二つの出来事が起きました。一つ目は私がドーサ事件と名付けた出来事です。洞窟での滞在の最終日の朝に、私はある行法に取り組んでいました。眉毛の間の中心部分にある、白い二枚の花びらをもつ蓮の花に意識を集中させるものです。アーニャー・チャクラというエネルギーの集中箇所を覚醒させるためのクリヤ・ヨーガの修行です。しかし、どれだけ試しても、なぜか大好物の朝食である南インドのマサラ・ドーサが頭に浮かんできてしまうのでした。このときはじめて、自分がどれだけドーサを好きだったかを私は知りました。もはや依存症のようで、力を尽くして抵抗しましたが、なかなかドーサのイメージは私の頭を離れないのでした。

 ババジが私の方に歩いてきて、私の肩に触れてから言いました。「何を対象にして瞑想しているのだね?」私は答えました。「アーニャー・チャクラです」。彼は笑い出しました。「そうかね?それはマサラ・ドーサの形をしているのかな?」

 私は言いました。「ババジ、お願いです。あなたが私の意識の内容を知っているのはわかっています。笑っていないで助けてください」。

 

④ マヘーシュワルナート・ババジと老僧との会話

 「これまで蓄積した知識であなたの意識はいっぱいになっていて、

既にそこにある真理を受け入れるための空間が今のあなたにはない。抱えている重荷を下ろしなさい。全ての荷物を投げ捨て、空っぽの状態となりなさい。そうすれば溢れるほどのものを受け入れることができる。

 絶対の真理は決して過去にあるものではない。この真理は永遠の現在にのみあるのだ。真理は現在、この瞬間に、生の躍動と共に永遠と流れているものだからだ。

 甘美な、聖なる風が通り抜けるためには、プライドと借り物の知識で曇っている窓の付いた扉が解放されなければならない。

 私の言っていることは理解できるかね? あなたに会うことはもうないだろう。私たちは数日後にはゴームクに発つのでね」。

 

 こう言い残して、ババジは立ち上がり、私たちは老僧にお別れを告げました。

涙を両目に溜めた老僧はババジの足元に伏して敬礼をしようとしましたが、ババジは彼の肩をおさえて止めました。

 「あなたはサンニャーシンで、黄土色の衣を身に着けている。加えて、あなたは真摯な男であり、世間的な基準から言えば私よりも年上だ。なのでひれ伏しての挨拶などは止めなさい。私への敬愛の念はあなたの目を見ればはっきりとしている。それで十分だ」。

 

 去っていく私たちを見送りながら、彼はガンジス川の川岸に立っていました。

「ババジ。私も真理へと導いてください。今日は深い学びを得ました。あなたはとても親切な人です」と私(シュリーエム)は言いました。

 ババジは笑い声を立て、右腕で私の肩を抱えて言いました。

「全ては適当な時期にもたらされるだろう。木曜の朝にはゴームクへ向けて出発だ」。

 

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シュリーエムの描いたマヘーシュワルナート・ババジ

それでは、旅をはじめましょうーヒマラヤの師と共に『前書き』全文をご紹介します!

『ヒマラヤの師と共に〜現代を生きるヨーギーの自叙伝〜』

「前書き」の全文をこちらでご紹介いたします!

*GREEN FUNDINGのサイトはこちらです。https://greenfunding.jp/lab/projects/3065

この本は、南インドの海岸沿いから雪に包まれた神秘的なヒマラヤ山脈の峰々へと至り、そこから平野へと戻っていく旅の記録です。この旅路で私は並外れた力を持つ人たちと出会い、信じがたいほどの素晴らしい体験を彼らと共にしました。この旅に読者のみなさんをお連れする前に、前置きとして、いくつか知っていただきたいことがあります。

この本を書くまで、この体験の話は誰にもしたことがありませんでした。それは私の心のなかに大事にしまわれ、最も親しい友人たちにさえ、私の意識の奥底にあるものが明かされたことはありませんでした。

しかし、何故、私はこの経験を他人から隠すようにしていたのでしょう?そして、今になって秘密を公にすることにしたのは何故でしょう?

 

まず、その説明をしましょう。

 

私の師匠の「ババジ」は、私が自叙伝を書くことになると常々言っていました。そして、この本の出版される2年前にババジから執筆の許しを得ました。しかし、その後6ヶ月もの間、この本に書かれている体験を公にすることを私はためらっていました。私の躊躇していたのには2つの理由があります。

 

まず、神秘的な体験の魅力に惑わされ、真摯に真理の探求をしている人々が、探求において必要不可欠である現実的な側面を、誤解してしまうのではないかという懸念がありました。

また、私の体験のいくつかの部分は信じられないほどに奇妙であるため、疑い深い読者からは、作り話として真剣に扱われない可能性もありました。

 

しかし、最終的に、私は自叙伝を書く行為を次のように正当化しました。

 

まず、自身の体験を書くのが私にできることの全てであり、それをどう判断するかは読者の自由です。懐疑的な読者も少人数ながらいるでことしょう。しかし、その少人数に対する遠慮のために、他の大勢の読者に私の体験を伝えないというのは不公平なことだと私は考えました。

 

また、インドのヨーガの達人の自叙伝で古典的存在となっている『あるヨギの自叙伝』が書かれた後、真率なヨーギーの自伝というのは世に少なく、本の著者は既に他界しているか、もしくは公に出てていない場合がほとんどです。さらに『あるヨギの自叙伝』がどれだけヨーギーの世界の実像に近いものであろうと、本の著者がヒマラヤ山脈で過ごした時間は短いものです。そのため、特にヒマラヤ山脈での期間を含めて、自分の体験を今の世に生きる人々に伝えることは重要なことだと私は理由付けました。そして、真剣に真理を探求している読者のために、自叙伝をきっかけに、私の知識を共有する機会も与えられるようになるとも考えました。

 

最後に、この自叙伝を書くことで、ほんの一握りの人々にしか知られていない、私の師であるマヘーシュワルナート・バジジ、また彼の師であるシシュリー・グル・ババジのように偉大な師匠たちが、世界中の人々の発展と幸福に与えている大きな影響の証をすることも私は試みたのでした。

 

必要であれば、あまりに奇怪で信じられないような箇所は飛ばして、残りの部分を読んでみてください。一部分が信じられないというだけで、シュリー・グル・ババジやマヘーシュワルナート・ババジの貴重な教えを読み落としてしまうことがないようにしてほしいと思います。私が師匠に負うところは、近代インドの聖者、スワーミ・ヴィヴェーカーナンダが彼の師匠であるラーマクリシュナ・パラマハンサについて言ったことと同じです。彼は言いました。「私の師匠の神聖な足からこぼれ落ちた塵のかけらで、千人のヴィヴェーカーナンダを生み出せたことだろう。」

 

「ヴィヴェーカーナンダ」を私の名前に代えてもらえれば、私が師匠に負う負債の大きさがわかっていただけるかと思います。

 

さて、前置きはこれくらいにして、読者のみなさんを未知の旅へとお連れしましょう。偉大な師匠たちによる祝福があなたと共にありますように。

 

それでは、旅をはじめましょう。

 

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※写真の無断転載はご遠慮ください。

ファンディングに寄せられた反響のご紹介

◇「ヒマラヤの師と共に」クラウドファンディングにご支援いただいた
  様々な方からの声の一部をここにご紹介いたします。
 
強く応援しています!(ヨーガ指導者Yさん)

私もこの本を読んでみたい!!チャリティースクール経営Mさん)

志のある著作物を、志を同じくする出版人が翻訳出版する。本来の出版のあり方ですね。(出版社役員 Iさん)
 
今までは泣き寝入るしかなかったことも、クラウドファンディングで勝負できる時代に。私にとってこの事件?は、今の閉塞した時代を切り開く可能性の種子のように感じます。数学者Oさん)

これを読んでからぜひインドに伺いたいです。応援しています! (yさん)

拝読できることを楽しみにしています。 世界や日本の進む道に光を照らしてください。(sさん)
 
支援済みですが、もう一口応援したくなりました。(hさん)
 
気合いの入った本を楽しみにしています。(弁護士 tさん)
 
私は海外在住ですのでSri M氏が来日されてもお会いできないかもしれませんが、日本の地と日本の方々が祝福されることを祈っています。 (海外在住sさん)

とても貴重な本が、ぜひ出版されることを願っています。ヒーラーKさん)

書籍の出版を楽しみにしています。周りにも声をかけてクラウドファンディングが成立するように応援しますね! (弁護士Tさん)
 
素晴らしい使命、仕事を夫婦で応援しています。(ヨーガ指導者Hさんご夫婦)

日本語による出版を楽しみにしております。 ボレ ババ キ ジェイ !! (cさん)

小さな一歩でも山の頂上に届きますように! (編集者Fさん)

素晴らしい聖者の魂の軌跡を 日本語で共有させてもらえますこと 感謝しております 本の完成を愉しみにしています 。(tさん)
 

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Crowdfunding for publishing Apprenticed to a Himalayan Master´ in Japanese

The aim of this crowdfunding project is to publish Sri M’s autobiography, 'Apprenticed to a Himalayan Master: A Yogi’s Autobiography', in Japanese.

If we get enough support through this crowdfunding project, we shall be able to get this book published in Japan. Readers who would appreciate this kind of book tend to stay away from social media and the buzz of the Internet, so there is no guarantee that these readers will come across our crowdfunding project at all. This project is almost akin to climbing up the Himalayan mountains in terms of its uncertainty and potential challenges. We humbly ask for your help to spread the word, so that this project can be brought to the eyes of many people.

 

This is the original crowdfunding page in Japanese (Timing 08/30/2019 - 10/31/2019):

https://greenfunding.jp/lab/projects/3065

We regret to inform you that the crowdfunding site does not accept credit cards issued outside of Japan. If you are based abroad and are interested in supporting the project, please send an email to the following email address:

rengesha@padmapublishing.jp

 

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When it was first published, 'Apprenticed to a Himalayan Master' immediately became a national bestseller in India. Soon, many people outside of India also came to know of of it; subsequently, the reader base spread worldwide.

 

The book’s author, Sri M, belongs to one of the ancient lineages of yogis in Himalaya, Nath Pant. Not only a yogi but also a social reformer, Sri M undertook a large scale peace walk in 2015, with a mission to help people come together, regardless of religion, gender, race or ethnicity. “Walk of Hope” across the Indian subcontinent attracted more than ten million people, providing people with ample opportunity for interfaith and interracial dialogue and prayer.

 

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'Apprenticed to a Himalayan Master' traces the footsteps of this elevated soul. His soul's journey, guided and protected by his master, is an absolutely absorbing and fascinating one. It has been translated into many languages, but not yet into Japanese.

 

This is an incredibly important book that needs to be brought to the attention of people in Japan. Japanese publishers, however, tend to shy away from publishing books in relatively minor genres as the industry isn’t particularly lucrative these days.

 

This book was initially to be published by a Japanese publisher. But, half way through the process, there was an unexpected change in the management structure of the firm, and the contract was abandoned. The prospect for publication of the Japanese translation appeared to be doomed then.

 

Thankfully with the persistence of the team and support from many people, the book eventually found its way into publication though this crowdfunding project. Also, the people’s support and encouragement pushed the team to found a brand new publishing firm, Padma Publishing, for the publication of this book. Once this project is a success, we hope to bring more books like this to Japanese people in the future.

 

'Apprenticed to a Himalayan Master' is a priceless record of a soul’s sojourn that opens up the horizon of life beyond what is normally known. We hope to bring this precious book to many readers in Japan. We humbly ask for your kind support to publish this book in Japan.

 

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SriM interview for Japanese people:

 

■Team 

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■Project Director/Editor: Akiko Otsu

 

This book is not a fairy tale story about a saint aloof from the society. The author  lives in this world with us. This book reminds us that each single one of us is on an important journey of life.

 

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■Translator: Kotaro Aoki

Sri M, an authentic heir to the ancient lineage of yogis in India, takes the ideal of diversity and inclusion into action through transformation of the minds of individuals.

 

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■Reviewer: Toshiyasu Takei (Director of Ganesha Ganga) 

In this day and age, it is rare to come across a real sage even in books. I strongly believe that this book will bring a ray of light into today’s dark world.

 

Many supporters contributed words of encouragement and recommendation for this project. Please read below what leading yoga and spiritual teachers in Japan have to say about this book. 

 

■Recommendations

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◇Junko Tomonaga (Director of Tomonaga Yoga Institute) 

Techniques and knowledge are important to attain a state of yoga; however, equally important is a strong yearning for the higher realm, the world that this book explores and represents.

 

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◇Gandhari Matsumoto (Director of Nagomi Yoga Research Institute) 

This book shall find the right people. Such is the power of this book. Let’s bring this book into the world.

 

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Yumiko Terasaki (Director of Sivananda Yoga Vidya Kendram) 

This book is a testament to the depth of a guru’s love, which even exceeds that of a mother.

 

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◇Yoshio Yamasaka (Director of Mount Hill Yoga Studio) 

This book has the power to purify and awaken the pure force within the reader.

 

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◇Tomoko Hayano (Director of Tryambakam yoga center)

This autobiography will help bring the next generation of yoga practitioners into Japan.

 

■Reward

The crowdfunding website does not accept credit cards issued outside of Japan. If you would like to support the project, please contact us via email:

rengesha@padmapublishing.jp

 

<1> Make a pledge without a reward: ¥2000 ($20USD approx)〜

・All the funding goes to support the project. The minimum amount is ¥2000〜

・A thank you letter from the project members.

 

<2> Purchase a book: ¥4,800(plus 8%tax) ($50USD approx)

・Apprenticed to a Himalayan Master, in Japanese

※Extra cost for international shipment applies 

 

<3>  Your name in the book + Apprenticed to a Himalayan Master in Japanese: ¥20,000(plus tax) ($200USD approx)

・ As a sign of your contribution to the project, your name will be printed in the acknowledgement section of the book.

・ Apprenticed to a Himalayan Master, in Japanese, with your name in the acknowledgment section.

※Extra cost for international shipment applies

 

<4> Purchase a bundle of 5 books for a discount price: ¥22,500(plus 8%tax) ($220USD approx)

・Recommended for a group purchase. 7% special discount applies.  

※Extra cost for international shipment applies

 

<5> Purchase a bundle of 10 books for a discount price: ¥40,000(plus 8%tax) ($400USD approx)

・Recommended for a group purchase. 7% special discount applies.

※Extra cost for international shipment applies  

 

<6> Support Sri M’s visit to Japan in the future: ¥30,000(plus 8%tax) ($300USD approx)

・ Support Sri M’s visit to Japan in the future.

・ Early bird reservation option for Sri M’s visit to Japan (date to be announced). 

※When the visit is announced in the future, supporters for this reward will receive additional benefits.

 ※This reward does not come with a book. Please choose the book reward separately if you wish to have a copy of it.

 

The tax rate'll increase to 10% from 01,October, 2019, but in this crowdfunding, the tax is 8% fix rate.

翻訳者によるSri M氏の紹介 (part 3) – 翻訳に至る経緯・読者に対する想い

翻訳者推薦文 2019.09.06 (part 3) 

GREEN FUNDINGサイトはこちらです。https://greenfunding.jp/lab/projects/3065

 

―翻訳に至る経緯と読者に対する想い

 

 スイスの巡礼も半分が過ぎる頃、日本の人たちにも自叙伝を読んでもらえたらとシュリー・エム氏は言った。翻訳を仕事にしていた私は、それなら自分がと申し出た。しかし、疑問もあった。日本の人がこの本に価値を見出すだろうか?明らかな「差異」が表には出にくくも、だからこそ目に見えない形での「分断」が進みつつある日本で、シュリー・エム氏の掲げる「統合」が何の意味を持つのか?

 

 次のような希望をもって、私はこの本を日本語に翻訳することに決めた。

 

 「統合」は全て個人からはじまるものである。今この瞬間も私たちの内側には相容れない考えや欲望の数々が渦巻いている。個人の意識が統合された状態になって、はじめて相互の共通点に目が開かれ、差異を包み込んだ集団や社会が可能になる。統合の目的地は個人レベルでは幸福と呼ばれ、集団レベルでは平和と名付けられる。はじまりはいつも個人の意識からなのだ。これはインドもアメリカも日本も同じである。
 
 対話や言葉があからさまに軽んじられる今の世界で、共通理解の基盤がどこにあるのかと憂う私たちに、シュリー・エム氏の示す統合の歩みは希望の可能性を与えてくれる。統合は長い長い道のりのように見える。それでも、長い坂道の先にある希望は、先行きの暗い世界を照らす貴重な光だ。

 

 ハプニングあふれる本書の内容に似つかわしく、本翻訳書の出版もまた、予想外の展開を見せて関係者一同を驚かせた。日本からインドまで著者を訪ねた発起者の本書にかける情熱は並大抵でなく、彼女の熱意に宇宙までもが動かされるかのように、一度は危ぶまれた出版の手はずが再び整いはじめた。実現に向けて動いていただいた全ての方々に改めて感謝したい。
 

 そして、このクラウドファンディングを通して、一人でも多くの日本の人がシュリー・エム氏の本を手に取り、この人物の数奇な人生を追体験して、個人そして社会の統合の歩みに加わることを切に願う。

part 1 はこちらです。https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/01/211516

part 2 はこちらです。 https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/03/190138

 

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※写真の無断転載はご遠慮願います。 

【青木 光太郎】略歴:インド各地を放浪する翻訳家。日本で生まれて高校まで日本で育つ。フリーマン奨学金を受けて、大学はアメリカのコネチカット州にあるウェズリアン大学で西洋哲学を学ぶ。大学卒業後はいくつかの職場で働き、その後は翻訳をしながら世界を旅する。現在はインドを放浪しながら、各地の達人からヨーガとヒンドゥー密教を学んでいる。

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翻訳者によるSri M氏の紹介 (part 2) – シュリー・エムという人物

翻訳者推薦文 2019.09.03 (part 2) 

GREEN FUNDINGサイトはこちらです。https://greenfunding.jp/lab/projects/3065

 

―シュリーエムという人物 

 

 実は、スイスではじめて会ったときのシュリー・エム氏の第一印象は、正直なところ普通だった。私が期待していたのは修行者のような厳しさと神々しさのオーラを持つ人だったが、彼の立ち居振る舞いは謙虚そのもので、あまりの腰の低さに参加者の一人かと思わせた。しかし、話し込んでいくほどに、彼という人間の底知れぬ深さが明らかになっていった。巡礼では正午前に講話が毎日あった。私は彼にこう質問をしてみた。

 

 「本を読んだところによると、あなたは境地の高みに到達した人のようです。これ以上ない悟りを開いたと言えますか?また、それなら毎日の修行は必要ないのですか?」彼は答えた。「そのような境地に私は達したと思っています。それでも、修行は毎日します。なぜなら、自己がどれだけ自由になっても、世界で生きているかぎり、汚れを落とすための定期的な維持が必要だからです。それに修行はもはや私の人生のパートナーです。ただ、純粋な喜びのためにやっています。」

 

 非の打ち所がない答えよりも説得力があったのは、答えの内容を体現する、シュリー・エム氏の日頃からの立ち振る舞いだった。彼は1つの波もなく静かで透明な、しかし底が見えないほどに深い湖のようである。その水を覗き込んでいると、こちらの心にも静けさと穏やかさが広がる。質問という石を投げ入れれば、深い底の知識の貯蔵庫からすぐに答えが返ってくる。(続く)

part 2 はこちらです。 https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/03/190138

part 3 はこちらです。 https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/06/101748  

 

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※写真の無断転載はご遠慮願います。 

【青木 光太郎】略歴:インド各地を放浪する翻訳家。日本で生まれて高校まで日本で育つ。フリーマン奨学金を受けて、大学はアメリカのコネチカット州にあるウェズリアン大学で西洋哲学を学ぶ。大学卒業後はいくつかの職場で働き、その後は翻訳をしながら世界を旅する。現在はインドを放浪しながら、各地の達人からヨーガとヒンドゥー密教を学んでいる。

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翻訳者によるSri M氏の紹介 (part 1) – 分裂から統合へ

翻訳者推薦文 2019.09.01 (part 1) 

GREEN FUNDINGのサイトはこちらです。https://greenfunding.jp/lab/projects/3065

 

―分断から統合へ~ シュリー・エム氏のあり方

  

 人々や社会の「分断」が議論されない日はない時代に私たちは生きている。人種や国籍、性を理由にした差別や迫害から、日常的な交流の希薄化まで、「分断」は現代の生活の隅々にまで浸透している。「分断」は「差異」から生じる。差異を理由にして権利を剥奪する集団がいる一方、差異を理由に権利を求める集団が他方にいる。これまでになく物理的に繋がった世界で、これまでになく人々は互いから離れている。個人と集団がそれぞれの違いを訴え続けて、世界が行き着く先はどこなのだろう?

 

 シュリー・エム氏に私が見出したのは、「差異」の代わりに、「統合」を中心にして生きる姿勢である。「統合」とは、お互いの共通点を基盤にした相互理解である。国家、民族、政治、宗教、貧富、ジェンダー、これらの差異を受け止めるためには、差異を理解するだけでは足りない。どこか深いところで私たち全員が持つ共通点が、経験知としてストンと個人の腑に落ちなければならない。インドの最も古い賢者の系譜を継ぐシュリー・エム氏は、個人の意識の変革という内面的な手段を通して「統合」を目指している。

 

シュリーエムの教え

 

 そんな彼の伝える教えはヨーガである。ヨーガ?と首をかしげる人もいるかもしれない。あの身体を曲げたり伸ばしたりするヨーガ?シュリー・エム氏に出会うまでは、私も同じように思っていた。スイスのカトリック聖地を巡礼する旅で、私はシュリー・エム氏に出会った。意識の探求のための手はずが体系的、段階的に記された、古代の人間科学がヨーガだと彼は語った。そして、シュリー・エム氏が伝えるクリヤ・ヨーガは、私たち全員が持つ共通点に向けて、人々の身体と意識を開いていく方法である。

 

 特殊な呼吸法と瞑想法から成るクリヤ・ヨーガは、ヒマラヤ山脈のヨーギーたちの間の門外不出の秘伝として、親密な師弟関係を通してのみ伝えられてきたものだった。このヨーガをヒマラヤの師から伝授されたシュリー・エム氏は、クリヤ・ヨーガが現代の世界に広く必要なものだとして、求める人々には惜しみなく教えを与えている。散乱した意識の働きを静め、身体を巡るエネルギーを集約することで、クリヤ・ヨーガの実践者は自と他の間に境界線がない境地に至るのだという。

 

 言葉でいうのは簡単だが、実践は?彼の自叙伝を読み、また彼の人間を知るにつれて、シュリー・エム氏は言葉以上に実践の人だと私は知った。今、彼はインドで最も名の知られるヨーガの達人の一人だが、ヨーガの教えだけにとどまらず、世の中においても彼は働きかけを続けている。例えば、2015年、彼はインド全土の7500キロを歩いて回る「ピース・ウォーク」を1年以上かけて行った。宗教、民族、貧富、性別の境目なく、シュリー・エム氏を囲んで1000万人以上の人がインドの統合を目指して歩いた。(続く)

part 2はこちらです。https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/03/190138

part 3はこちらです。https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/06/101748

 

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※写真の無断転載はご遠慮願います。 

【青木 光太郎】略歴:インド各地を放浪する翻訳家。日本で生まれて高校まで日本で育つ。フリーマン奨学金を受けて、大学はアメリカのコネチカット州にあるウェズリアン大学で西洋哲学を学ぶ。大学卒業後はいくつかの職場で働き、その後は翻訳をしながら世界を旅する。現在はインドを放浪しながら、各地の達人からヨーガとヒンドゥー密教を学んでいる。

 

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