蓮華舎のブログ。

出版社 蓮華舎のブログです。新刊のこと、著者のお話、寄稿、取材記、舎長の日誌など。

翻訳者によるSri M氏の紹介 (part 3) – 翻訳に至る経緯・読者に対する想い

翻訳者推薦文 2019.09.06 (part 3) 

GREEN FUNDINGサイトはこちらです。https://greenfunding.jp/lab/projects/3065

 

―翻訳に至る経緯と読者に対する想い

 

 スイスの巡礼も半分が過ぎる頃、日本の人たちにも自叙伝を読んでもらえたらとシュリー・エム氏は言った。翻訳を仕事にしていた私は、それなら自分がと申し出た。しかし、疑問もあった。日本の人がこの本に価値を見出すだろうか?明らかな「差異」が表には出にくくも、だからこそ目に見えない形での「分断」が進みつつある日本で、シュリー・エム氏の掲げる「統合」が何の意味を持つのか?

 

 次のような希望をもって、私はこの本を日本語に翻訳することに決めた。

 

 「統合」は全て個人からはじまるものである。今この瞬間も私たちの内側には相容れない考えや欲望の数々が渦巻いている。個人の意識が統合された状態になって、はじめて相互の共通点に目が開かれ、差異を包み込んだ集団や社会が可能になる。統合の目的地は個人レベルでは幸福と呼ばれ、集団レベルでは平和と名付けられる。はじまりはいつも個人の意識からなのだ。これはインドもアメリカも日本も同じである。
 
 対話や言葉があからさまに軽んじられる今の世界で、共通理解の基盤がどこにあるのかと憂う私たちに、シュリー・エム氏の示す統合の歩みは希望の可能性を与えてくれる。統合は長い長い道のりのように見える。それでも、長い坂道の先にある希望は、先行きの暗い世界を照らす貴重な光だ。

 

 ハプニングあふれる本書の内容に似つかわしく、本翻訳書の出版もまた、予想外の展開を見せて関係者一同を驚かせた。日本からインドまで著者を訪ねた発起者の本書にかける情熱は並大抵でなく、彼女の熱意に宇宙までもが動かされるかのように、一度は危ぶまれた出版の手はずが再び整いはじめた。実現に向けて動いていただいた全ての方々に改めて感謝したい。
 

 そして、このクラウドファンディングを通して、一人でも多くの日本の人がシュリー・エム氏の本を手に取り、この人物の数奇な人生を追体験して、個人そして社会の統合の歩みに加わることを切に願う。

part 1 はこちらです。https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/01/211516

part 2 はこちらです。 https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/03/190138

 

f:id:purnamidam:20190905154830j:plain

※写真の無断転載はご遠慮願います。 

【青木 光太郎】略歴:インド各地を放浪する翻訳家。日本で生まれて高校まで日本で育つ。フリーマン奨学金を受けて、大学はアメリカのコネチカット州にあるウェズリアン大学で西洋哲学を学ぶ。大学卒業後はいくつかの職場で働き、その後は翻訳をしながら世界を旅する。現在はインドを放浪しながら、各地の達人からヨーガとヒンドゥー密教を学んでいる。

f:id:purnamidam:20190901211145j:plain

 

翻訳者によるSri M氏の紹介 (part 2) – シュリー・エムという人物

翻訳者推薦文 2019.09.03 (part 2) 

GREEN FUNDINGサイトはこちらです。https://greenfunding.jp/lab/projects/3065

 

―シュリーエムという人物 

 

 実は、スイスではじめて会ったときのシュリー・エム氏の第一印象は、正直なところ普通だった。私が期待していたのは修行者のような厳しさと神々しさのオーラを持つ人だったが、彼の立ち居振る舞いは謙虚そのもので、あまりの腰の低さに参加者の一人かと思わせた。しかし、話し込んでいくほどに、彼という人間の底知れぬ深さが明らかになっていった。巡礼では正午前に講話が毎日あった。私は彼にこう質問をしてみた。

 

 「本を読んだところによると、あなたは境地の高みに到達した人のようです。これ以上ない悟りを開いたと言えますか?また、それなら毎日の修行は必要ないのですか?」彼は答えた。「そのような境地に私は達したと思っています。それでも、修行は毎日します。なぜなら、自己がどれだけ自由になっても、世界で生きているかぎり、汚れを落とすための定期的な維持が必要だからです。それに修行はもはや私の人生のパートナーです。ただ、純粋な喜びのためにやっています。」

 

 非の打ち所がない答えよりも説得力があったのは、答えの内容を体現する、シュリー・エム氏の日頃からの立ち振る舞いだった。彼は1つの波もなく静かで透明な、しかし底が見えないほどに深い湖のようである。その水を覗き込んでいると、こちらの心にも静けさと穏やかさが広がる。質問という石を投げ入れれば、深い底の知識の貯蔵庫からすぐに答えが返ってくる。(続く)

part 2 はこちらです。 https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/03/190138

part 3 はこちらです。 https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/06/101748  

 

f:id:purnamidam:20190903185838j:plain

※写真の無断転載はご遠慮願います。 

【青木 光太郎】略歴:インド各地を放浪する翻訳家。日本で生まれて高校まで日本で育つ。フリーマン奨学金を受けて、大学はアメリカのコネチカット州にあるウェズリアン大学で西洋哲学を学ぶ。大学卒業後はいくつかの職場で働き、その後は翻訳をしながら世界を旅する。現在はインドを放浪しながら、各地の達人からヨーガとヒンドゥー密教を学んでいる。

f:id:purnamidam:20190901211145j:plain

 

翻訳者によるSri M氏の紹介 (part 1) – 分裂から統合へ

翻訳者推薦文 2019.09.01 (part 1) 

GREEN FUNDINGのサイトはこちらです。https://greenfunding.jp/lab/projects/3065

 

―分断から統合へ~ シュリー・エム氏のあり方

  

 人々や社会の「分断」が議論されない日はない時代に私たちは生きている。人種や国籍、性を理由にした差別や迫害から、日常的な交流の希薄化まで、「分断」は現代の生活の隅々にまで浸透している。「分断」は「差異」から生じる。差異を理由にして権利を剥奪する集団がいる一方、差異を理由に権利を求める集団が他方にいる。これまでになく物理的に繋がった世界で、これまでになく人々は互いから離れている。個人と集団がそれぞれの違いを訴え続けて、世界が行き着く先はどこなのだろう?

 

 シュリー・エム氏に私が見出したのは、「差異」の代わりに、「統合」を中心にして生きる姿勢である。「統合」とは、お互いの共通点を基盤にした相互理解である。国家、民族、政治、宗教、貧富、ジェンダー、これらの差異を受け止めるためには、差異を理解するだけでは足りない。どこか深いところで私たち全員が持つ共通点が、経験知としてストンと個人の腑に落ちなければならない。インドの最も古い賢者の系譜を継ぐシュリー・エム氏は、個人の意識の変革という内面的な手段を通して「統合」を目指している。

 

シュリーエムの教え

 

 そんな彼の伝える教えはヨーガである。ヨーガ?と首をかしげる人もいるかもしれない。あの身体を曲げたり伸ばしたりするヨーガ?シュリー・エム氏に出会うまでは、私も同じように思っていた。スイスのカトリック聖地を巡礼する旅で、私はシュリー・エム氏に出会った。意識の探求のための手はずが体系的、段階的に記された、古代の人間科学がヨーガだと彼は語った。そして、シュリー・エム氏が伝えるクリヤ・ヨーガは、私たち全員が持つ共通点に向けて、人々の身体と意識を開いていく方法である。

 

 特殊な呼吸法と瞑想法から成るクリヤ・ヨーガは、ヒマラヤ山脈のヨーギーたちの間の門外不出の秘伝として、親密な師弟関係を通してのみ伝えられてきたものだった。このヨーガをヒマラヤの師から伝授されたシュリー・エム氏は、クリヤ・ヨーガが現代の世界に広く必要なものだとして、求める人々には惜しみなく教えを与えている。散乱した意識の働きを静め、身体を巡るエネルギーを集約することで、クリヤ・ヨーガの実践者は自と他の間に境界線がない境地に至るのだという。

 

 言葉でいうのは簡単だが、実践は?彼の自叙伝を読み、また彼の人間を知るにつれて、シュリー・エム氏は言葉以上に実践の人だと私は知った。今、彼はインドで最も名の知られるヨーガの達人の一人だが、ヨーガの教えだけにとどまらず、世の中においても彼は働きかけを続けている。例えば、2015年、彼はインド全土の7500キロを歩いて回る「ピース・ウォーク」を1年以上かけて行った。宗教、民族、貧富、性別の境目なく、シュリー・エム氏を囲んで1000万人以上の人がインドの統合を目指して歩いた。(続く)

part 2はこちらです。https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/03/190138

part 3はこちらです。https://purnamidam.hatenablog.com/entry/2019/09/06/101748

 

f:id:purnamidam:20190901211135j:plain

※写真の無断転載はご遠慮願います。 

【青木 光太郎】略歴:インド各地を放浪する翻訳家。日本で生まれて高校まで日本で育つ。フリーマン奨学金を受けて、大学はアメリカのコネチカット州にあるウェズリアン大学で西洋哲学を学ぶ。大学卒業後はいくつかの職場で働き、その後は翻訳をしながら世界を旅する。現在はインドを放浪しながら、各地の達人からヨーガとヒンドゥー密教を学んでいる。

 

f:id:purnamidam:20190901211145j:plain

        

『ヒマラヤの師と共に』 目次のご紹介

GREEN FUNDINGサイトはこちらです。https://greenfunding.jp/lab/projects/3065

 

ヒマラヤの師と共に 現代を生きるヨーギーの自叙伝  

目次のご紹介

 

前書き

1章 はじまり

2章 ヒマラヤからの訪問者

3章 ガーヤトリー・マントラの詠唱

4章 ヨーギー・ゴーパーラ・サーミとの出会い

5章 神に陶酔したスーフィーの聖者

6章 ヒンドゥー教のスブラマンニャ寺院

7章 ヒマラヤ登頂のための準備期間

8章 シュリー・ナーラーヤナ・グルの物語

9章 奇妙で絶妙なインプット

10章 マスターンによる祝福

11章 3人の僧

12章 裸の女聖者 マイ・マー

13章 聖なる狂気とは

14章 ヒマラヤ試運転

15章 ヒマラヤに向けて出発

16章 ヴァーシシュタ洞窟

17章 ナーガ・サードゥと偉大なるマントラ

18章 神官と靴の修理屋

19章 バドリナートでの求道者

20章 ババジとの再会

21章 最初の秘伝の伝授

22章 クンダリニーの火を灯す

23章 年老いたチベットのラマ

24章 ヨーガ、ヴェーダ、ナータ派

25章 山男とトリングムットへの旅

26章 花の谷とヘームクンド

27章 シッダとの出会い

28章 ケダールナートで経路を拓く

29章 空から訪れた火の玉

30章 伝説の師匠との出会いと癒やし

31章 真の聖者

32章 シュリー・ヴィッデャの秘伝の伝授

33章 ドイツ人による解剖学の講義

34章 トリヴァンドラムへの帰還

35章 使命のための準備期間

36章 スーフィーの聖者の弟子となる

37章 ラーマクリシュナ・ミッションのブラフマチャーリー

38章 シュリー・デーヴィーとニーム・カローリ・ババに出会う

39章 ヴァーラーナシーのアゴーリーの変身

40章 アランディ、シルディとドア抜け事件

41章 さらなる旅と発見の日々

42章 タージ・マハールでババジに出会う

43章 ラクシュマン・ジューとJ・クリシュナムールティに会う

44章 ヴァサント・ビハールでの日々

45章 ババジ、肉体を離れる

46章 「K」の他界

47章 ニール・バーグへの転居と結婚生活

48章 サットサンガという名の列車

49章 カイラス山・マナサローヴァル湖への巡礼

50章 終わることなき旅

 

f:id:purnamidam:20190822130141j:plain